2020年、秋のはじまり。

山梨に移り住んで、3年と半分が過ぎた。夜明けの甲府盆地を望むオリーブ畑から眺める街の灯りは、未だまどろんでいるようだ。
何はなくとも畑を見回り、木々の状態を観察する習慣は、オリーブ栽培を学ぶために小豆島に渡った時からずっと変わっていない。
当時、30代半ば。都心育ちのぼくはそれまで、オリーブ栽培どころか農業とは無縁だった。

瀬戸内の抜けるような青空の下で、オリーブと向き合い、汗を流し、決して人間の意のままにならない自然を相手に苦悩した。
農業は、自然は、厳しい。だけど厳しさゆえに沢山の事を教えてくれる。オリーブに教えられることは、楽しい。
楽しいからこそ、この10年オリーブに打ち込んでこられた。そして小豆島での修行の日々が次第に遠くなっても、楽しさは変わらない。

「今度はすべて自分の理想と思うやり方で、一から畑を作ってみたい。」

その思い以外に何も持たず、山梨にやってきた。それこそ、はじめはスコップ一本で土を作り、樹を植えた。
一人きりでやっている畑だから、何千本なんて規模にはできないけれど。
だからこそ、一本一本の樹を大事に大事に育てている。


オリーブ栽培は、収穫よりもそれまでの期間の方がずっと長い。ぼくはまだ、その道のりを歩いている最中だ。
収穫は答え合わせ。答えに至る道は複雑に絡み合っている。土は、水は、肥料は、草は、虫は、気候は、天候は、気温は、湿度は……。

ぼくは今日もオリーブと向き合う。より豊かな答えを待ち望みながら。

 

PROFILE

 

1972年東京生まれ。

ヨーロッパの国々を訪ねるうちにオリーブの魅力に取りつかれ、イタリアにてオリーブオイルテイスティングを学ぶ。

2009年、「どうせなら栽培から学ぼう」と思い立ち、農林水産省『田舎で働き隊!』プログラムに参加、香川県小豆島へ渡る。

プログラムの終了後も現地の会社に就職し、栽培や採油等の前線に立ちながら、樹齢数百年を数えるシンボルツリーの管理等、農園全体のマネジメントに従事。

栽培採油責任者として製造・ブレンドを担当したエキストラバージンオリーブオイルは数々の国際品評会で優秀な成績を収める。

2017年3月より独立し山梨に移住。自身の理想とするオリーブ栽培に取り組む傍ら、企業等からの委託を受けて圃場づくりや栽培・採油指導も行っている。